ホーム >自分でメンテ(シャーシ編) > 3. クラッチオーバーホール
難易度指数:3〜4 | 気合が入っていないと怪我します |
バッテリーの+端子を外し、スタータ(画像)のB端子とS端子のハーネスも外します。
エンジンマウントの取り付けナットを外れない程度に十分緩めます。これはエンジンを後方へ傾けるという工程があるからです。
これもエンジンを傾ける理由で、スロットルリンケージを外します。
次にシフトレバーを外します。画像矢印部のピンに抜け止めのEリングを外すとピンが抜け、レバーを上方に引きぬきます。
ジャッキはパンタではなくなるべくなら油圧式が良いです。そしてウマ(リジットラック)で固定します。ジャッキはただ持ち上げるだけ。その状態で下に潜る場合は、必ずウマを掛けましょう。 ウマの掛ける位置は、サイドメンバが一般的ですが、センターのスペースが狭くなるので、画像の様にサイドシル部(パンタジャッキを掛けるところ)がベターです。いずれの場合もアタッチメントを付けて、鉄同士が当たらないようにしたいものです。画像をよく見るとアタッチメントの向かって左側の取り付けボルトにつく筈の蝶ナットがありません
プロペラシャフトをセンターベアリング部で前後に切り離します。ボルト4本外せば良いのですが、組み付け時に同位相となるように、予め「合いマーク」を付けてから外します。
次にフロントプロペラシャフトをミッションから引き抜いて取り外します。ただし、ミッションオイルが出るので、キャップをします。でも普通はそんなのありませんからペラは付けっぱなし。
ミッションマウント&メンバーを外します。下図がの丸で囲んだ部分を一体で外します。
予めジャッキでミッションを少しだけ持ち上げておくと外しやすいです。 外れたらジャッキを降ろします。するとエンジン+ミッションは後方に傾きます。 次にクラッチオペレーティングシリンダ(レリーズシリンダ)を外しておきます。
エンジンとのドッキングボルト(下図の黄色い線上にあり)4本を外します。
差し込み角1/2インチのソケットレンチでやりますが、上方2本のボルトはレンチの先をエキステンションバーで約1メートルに伸ばし(下画像)、上図のライトグリーンの線のような配置で使います。
またミッションが後方に傾いていないとスペースがなく、この2本のボルトは外せません。傾きが足りなければ、体重を掛けてミッションを引き下げ、隙間を作ります。
さて、ミッションがエンジンに刺さっているだけの状態になったら、いよいよ取り外しです。頭をエンジン、足をデフ側になるように仰向けに寝そべって、両手でミッション前部、両足でミッション後部を支えながらエンジンから引き抜きます。後部を揺すりながらやるといいです。気合を入れてかからないと怪我をしますので注意!! 抜けたら腹の上に降ろしてから、そのまま床に降ろす感じで体を脱出させます。すると右のような状態になります。
ようやくクラッチのお話。
構成部品は・・・
a.フライホイール
b.クラッチディスク
c.クラッチカバー(ディスクを押しつけるプレート&スプリングが入っている)
d.レリーズベアリング
e.ベアリングスリーブ
f.ウィズドロアルレバー(レリーズレバー)
クラッチカバー取付ボルト(※印)を6本外す事でbとcが外れます。aはエンジンに付いたままで脱着はしません。またd以降はミッション側に付いています。また要交換部品はb、c、dの3点セットがオススメ。
クラッチディスクの磨耗限度はフェーシング(擦れるところ)にある16個のリベットの沈み込みを測って1つでも2mm以下なら要交換です。
画像のディスクはリベットから内側が黒ずんでいますが、エンジンのオイル漏れが原因で付着したと思われ、ジャダー(半クラ時の接続ビビリ)が出ていたものです。厚みはまだ限度まで達していないものの、ここまで分解しないと直せません。
なお、ディスクには裏表があります。左画像はミッション側、右画像はエンジン側です。
このまま手前に引っこ抜きます。
外れるとこんな感じ。
右:この様に持ちながらベアリング外周部をハンマーで均等に叩くと(所要時間約3〜5分)スリーブから抜けます。
右下:新品ベアリングを打ち込みます。ハンマーで叩いて良い部分は画像のようなベアリング内周部(インナーレース部)に限ります。それ以外では中のベアリングに衝撃が伝わってパーになります。
組み付けは逆の手順となります。ウィズドロアルレバーの摺動部にはグリス塗布を忘れずに。
ここからは組み付けの話です。
クラッチカバーの取付ボルトを仮締めした後、ディスクとフライホイールの中心を一致させます(センター出し)。コレ、一連の作業で一番重要と言っても過言ではなく、センターがずれたまま組んでしまうと絶対にミッションが入りません。
画像ではセンター出しする為に、ミッションのメインドライブシャフト(メンドラ)を単品で差し込んでいます。この状態でボルトを本締めします。メンドラの代用で、ドライバーの柄も使うことができ、この時は太さをガムテープを巻いて調整します。ただしセンターが出たかのチェックを必ず目視で行います。
ここから先は基本的に分解の逆の手順で組み立てて行きます。
ミッションをエンジンとドッキングさせる時の、スムーズにやるコツは、画像の様にエンジンフロント部をジャッキで持ち上げて、エンジン自体の姿勢を後方へ強制的に傾けることです。ミッションを降ろす時はその重みで自然と後ろのめりになるのですが、エンジン単独状態では水平に近い姿勢に戻っているからです。後ろに傾けないと、ミッション頭部がフロアトンネルに引っ掛かってしまいます。
ただしミッション取付って、体力的に最もハードなところ。コツさえつかめばそれ程ではなくなるのですが・・・
部品名称 | 部品番号 | 参考概算価格 (2021年現在) |
備考 |
クラッチディスク (*) | 30100-33F61 | 15,000 | |
>クラッチカバー | 30210-N3100 | 19,000 | 製廃の可能性アリ。アイシン品番:CN-012 |
レリーズベアリング | 30502-21000 | 2,000 |
*; クラッチディスクはあまり部品番号や「XX車用」などの文句に従がわなくても流用できる部品です。最低限チェックすることは外径と軸部のスプライン数(ギザギザの山の数)。外径は225mm(ディスク本体に刻印アリ)、スプライン数はFR車はすべて同一なので、FR車用であることが確認できれば付きます。メーカーに言わせればフェーシング材質やダンパースプリングをその車種(エンジン)に最適なセッティングにしてあるとの事ですが、あまり神経質にならなくても良いと思います。
せっかくミッション脱着をやるのですから、ついでにやっておきたい作業があります。それはクランクシャフト リヤオイルシールとミッション フロントオイルシールの交換です。
オイルシールとは回転する軸と本体(ケースなど)の隙間からオイルが流出するのを止めるもので、主にゴムでできた部品です。パッキンみたいなものだと思って下さい。ゴム製品ですから経年変化や熱劣化し、軸に絶えず擦れ合う部品なので使い込んでくれば磨耗して行きます。そして劣化や磨耗したオイルシールはオイル漏れへと発展します。
ここまで読まれた旧車オーナーの方はピンと来る事でしょう。旧車で交換歴ナシのオイルシールは、その殆どが劣化しているのです!
ですから、ある修理作業の工程で脱着しやすくなるオイルシールは積極的に交換されることをオススメします。今回のクランクリヤオイルシールはエンジンの後方でクランクシャフトがフライホイールと繋がる付近、ミッションフルントオイルシールは入力軸であるメインドライブシャフトにあり、いずれもミッションを降ろさなければ話にならない作業です。
部品代は例えばクランクリヤで\2,000程度。これだけの為にミッションを降ろしたくもありませんね(笑)
また、これらの部分からオイル漏れがあった場合、クラッチディスクにオイルが付着してしまうことがあります。こうなったクラッチはたとえディスクが磨耗していなくても、「滑り」「ジャダー」「うさぎ跳び(半クラがうまくできず急発進)」を起こすようになり、交換が必要です。
クラッチを外した後、エンジンに回り止めを掛けてから、フライホイール取付ボルト6本を19mmのソケットレンチで緩めます。かなりガンガンに締まってます!
重いフライホイールを降ろしたら、早速オイルシールをマイナスドライバーでこじりながら抜き取ります。注意点はシャフトなどにキズを付けない様に外す事。キズを付けてしまうとオイルシールが正常でもオイル漏れします。反対のケース側なら液状ガスケットでごまかすことは可能ですが・・・
いずれにしてもキズは付けないことですね。オイルシール交換って、個人的には何となく気を使うのでイヤです(笑)
クランクリヤオイルシールはオイルシールの中でも最も大きいと言えるでしょう。デカイほど嵌め込むのにコツが入ります。
まずオイルシールは摺動部に当るリップ部(右端画像矢印)にグリースを塗布します。大抵塗ってあるモノが多いですけど。
嵌め込む時はプラハンなどを使って均等に打ち込みます。多少手前でも奥でも良いから斜めにならないようにです。あまり強く叩くと変形しますので、手加減も必要。抜き出した古いオイルシールをアタッチメントにしてやっても良いです。
最後にフライホイールを取り付けます。ココの締付トルク管理はしっかりさせたいもの。いい加減ではボルトが緩んでぶっ飛びます。
トルクはL型エンジンでは12.5〜15.5kg-mです。
取り外しのところで触れた、「エンジンの回り止め」は画像の矢印にある三日月状のものです。A/T用リングギヤを切ったものに短いパイプを溶接した自作品。
*; クランクリヤオイルシールのなかには今回のようなリング状のほかに、ジュートシールと言ってクランクシャフトを外して作業しなければならないタイプがあります。比較的古いエンジンで採用されていて、日産では初期L型(69年以前)、J型、H型などが該当します。
部品名称 | 部品番号 | 参考概算価格 (2021年現在) |
クランクリヤオイルシール | 12279-5L310 | 1,800 |
取付部位は上のイラストの通りですが、分解方法はミッションタイプによって若干違います。日産のミッション型式で下1桁が「A」のタイプと「B」、「C」のタイプに大別出来ます。判別方法は下表を参照して下さい。
日産型式下1桁 | ミッションケースの構成 (外観での判別) |
搭載車の年式 | 日産型式の表記例 | 画像例 |
「A」タイプ | 3分割(前中後) | 〜71年10月頃 | RS4W71A | 下にある画像 |
「B」「C」タイプ | 2分割(前後) | 71年10月頃〜(*) | FS5W71C | 上にあるミッション分解図 |
* 「C」タイプが登場するのは80年代になってから
フロントオイルシールは「A」タイプなら右の画像の様にフロントケースを分解し、「B」「C」なら上の「取付部位」のイラストの様にフロントカバーを外して交換します。「B」「C」タイプのほうが作業性に優れていますね。またどのタイプでも分解する部分の合わせ目にあるガスケット(パッキン)も交換しなければなりません。
更についでに・・・
私なら、ですが、ここまでやるなら更にミッションリヤオイルシールとスピードメータギヤのオイルシールも交換します。リヤオイルシールから漏れるとプロペラシャフトとの繋ぎ目からオイルが漏れ、メーターギヤから漏れるとケーブルとの繋ぎ目から漏れたり、ケーブル内に浸入してメーター作動不良になるばかりでなく、スピードメーターまでオイルが伝わって来て運転席で漏れる・・・なんて事も稀ですがあるのです。
スピードメーターギヤ分解
この2ヶ所はミッションが付いたままできるので、パスしても良いでしょう。「私ならやっちゃいます・・・」と言う程度です(笑)
部品名称 | 部品番号 | 参考概算価格 (2021年現在) |
備考 |
フロントオイルシール | 32114-Y4000 | 300 | |
フロントケースガスケット(「A」タイプ) | 32118-78000 | 1,500 | 製廃の可能性アリ |
フロントカバーガスケット(「B」「C」タイプ) | 32112-08U01 | 1,000 | 製廃の可能性アリ |
リヤオイルシール | 32136-U0100 | 400 | 後対応部番アリ? |
メーターギヤ O(オー)リング | 32710-14600 | 300 | |
メーターギヤ オイルシール | 32709-14600 | 150 | |
メーターギヤ ピン (ギヤ固定用) | 32873-14600 | 130 |
* 「A」タイプ等の表記がないものは共通だと思われます。