ホーム > ウンチク資料集 > 02. 有鉛ガソリン仕様について
昭和40年代半ば以前の旧車は、その殆どが有鉛ガソリン仕様です。自動車用燃料として有鉛ガソリンは廃止、現在では販売も禁止されました。よって今では無鉛ガソリンを入れることになり、オクタン価さえ間違わなければ殆ど問題がないことがわかりましたが、有鉛ガソリンの目的、廃止の経緯、日産車の対応方法詳細等についてまとめてみました。
四エチル鉛などのアルキル鉛を微量添加したガソリンのことを一般に有鉛ガソリンと言います。四エチル鉛を入れる目的は主に2つ。
バルブシートは燃焼室と吸排気ポートとの境にあるので、オイルで潤滑する訳にはいきません(といっても2ストではやってますが)。ここは高温かつバルブ開閉時の衝撃で磨耗しやすい環境にありますが、鉛がクッションの役割を果たし磨耗を防止しています。バルブシートは少々材質が軟らかいほうがバルブとの密着が良く、シート面の加工精度が多少低くても気密性が保てるのです。よって軟らかい材質のバルブシートを採用し、鉛のクッション効果に頼っていたと言えます。
また、四エチル鉛を添加する事でオクタン価が比較的容易に調整できる利点もあり、当時はハイオクガソリン(ハイオクタンガソリン、プレミアムガソリンとも言う)のみならず、レギュラーガソリンも有鉛でした。
*:オクタン価・・・簡単に言うと、ノッキングなどの異常燃焼のし難さを示す数値。数値が大きくなれば耐ノック性が強くなる。現在販売されている無鉛ハイオクガソリンは98前後(無鉛レギュラーガソリンは90前後)。ガソリンエンジンは圧縮比を上げると、燃焼効率が上昇し出力が向上するが、ノッキングを起しやすくなるのでオクタン価の高いガソリンを指定する必要がある。
昭和45(1970)年5月、東京都新宿区の牛込柳町交差点で発生した「鉛中毒事件」がキッカケと言われています。その後、産業構造審議会、無鉛ガソリン推進協議会等で無鉛化の検討がされ、昭和49(1974)年11月24日付通産省通達「ガソリン無鉛化対策について」により内容が公開、実施される事になりました。
昭和49年11月24日付、通産省通達「ガソリン無鉛化対策について」で決定された内容の骨子は以下の通りです。
またハイオクガソリンについては95以上、レギュラーガソリンは88以上(89〜92)にハイオクタン価成分を多く配合してオクタン価を保ち、組成については排出ガス中の有害成分を増大させないように芳香族等極力増さないようにする。
と言う事です。後半がやや難しい表現ですが、昭和50年2月からレギュラーガソリンのみオクタン価を低下させる事無く無鉛化、ハイオクガソリンはとりあえずは有鉛で継続生産となりました。当時はオクタン価を約95以上にするには鉛に頼るしかありませんでした。ハイオク仕様のエンジンにレギュラーガソリンを入れてしまうと、ノッキングが発生しエンジンが破損します(現在の電子制御エンジンは、ノック回避制御が組み込まれているので破損の心配はない)。この背景からすぐに廃止できませんでした。昭和62(1987)年に有鉛ハイオクが廃止*されるまでの間は、レギュラー=無鉛、ハイオク=有鉛と言う供給体系だった為、「有鉛ガソリン=ハイオク」の概念が定着してしまったと思われます。無鉛化が騒がれる前はレギュラーガソリンも有鉛だったのです。
*:有鉛ハイオクも鉛の含有量は昭和50年以降減少し続け、当初は15%あったものが、昭和58(1983)年頃には約1/10の1.5%程度までになっていました。
給油口付近に貼るステッカーはこの時からなんですね。
冒頭でも触れた通り、有鉛ガソリンはバルブシート保護の効果がありました。これを無鉛化したガソリンで使用すると、オクタン価さえ間違っていなければすぐに不具合には至りませんが、長期間使用し続けるとバルブシートの異常磨耗(リセッション)が発生します。
つまり有鉛ガソリンの鉛はシート面に付着して金属同士の接触を避けていましたが、これがなくなった為、
バルブシートが磨耗
↓
バルブ閉時のバルブ位置が上昇する
↓
バルブクリアランスの詰まり、突き上げ状態
↓
バルブが全閉できず圧縮抜け
となりエンジン不調となります。これはあくまでも長期的(走行で2〜3万キロ以上)に見た場合であり、数回の走行ですぐに不具合には至りません。
無鉛対策車はバルブシートの材質が変更されています。無鉛対策用バルブシートは耐熱、耐磨耗性に優れた特殊合金鋼を採用しており、これはLPGエンジンに使用されていたものを流用していたりもします。
バルブシートの磨耗は、エンジンの回転速度に比例し、ヘッドの放熱性の観点からアルミ製ヘッドのほうが鋳鉄製ヘッドよりも有利です。
以上から、未対策エンジンの場合はエンジンの種類や用途等で3種類に分類し、無鉛・有鉛の混合をしたり定期的にバルブクリアランス調整をしながら使用する事になりました。
昭和49年11月24日付通産省通達「ガソリン無鉛化対策について」を元に、日産では同11月末に以下のような対応方法を発表しました。
ステッカー | ガソリン使用方法 | 該当車両 | ||
---|---|---|---|---|
無鉛化 | オクタン価 | エンジン仕様及び車両用途 | ||
無鉛 |
常時無鉛ガソリンでOK。 | 済 | レギュラー | 無鉛対策レギュラーガソリンエンジン全車 |
高速有鉛 |
100km/h以下の速度及び規定以下の積載量なら無鉛レギュラーガソリンでOK。 ただし走行距離が15,000km毎にバルブクリアランスの点検、調整が必要。 |
未 | レギュラー | アルミ製ヘッドのエンジンを搭載した乗用車(含、バン) |
平坦路なら常時無鉛ガソリンでOK。ただし高速道路2時間以上または峠などの山道3時間以上の走行または常時高速(80km/h〜)走行する場合は有鉛ガソリンを3分の1程度混ぜる必要アリ。 | 未 | レギュラー |
|
|
混合 |
常時有鉛ガソリンを3分の1程度混合する必要アリ。 |
未 |
レギュラー | 鋳鉄製ヘッドのエンジンを搭載したトラック |
有鉛 |
常時有鉛プレミアムガソリンを使用する必要アリ。 | 未 &済 |
ハイオク | ハイオクガソリンエンジン全車(無鉛化有無問わず) |
更に、高速有鉛でかつアルミ製ヘッドのエンジンを搭載した乗用車は、右のようなステッカーが運転席内張りに貼付されていました。 |
自動車の無鉛対策は昭和47(1972)年3月生産分から義務付けになりました。従って、昭和46(1971)年度生産分までの車両は全車有鉛仕様、昭和47年3月生産から無鉛仕様に切り替わります。一般的に、昭和48(1973)年の排ガス規制で盛り込まれたアイテムだと思われていますが、それよりも前です。
また無鉛対策は、ハイオク仕様エンジンにも実施されています。ただし、当時はハイオクガソリンの無鉛化は技術的に不可能でしたから、無鉛ハイオクガソリンは販売されていません。無鉛対策済みエンジンでもハイオクガソリンを使用させる意味で、「有鉛」の赤いステッカーが貼られていました。
有鉛車か無鉛対策車かは、車台番号で判別できますが、移行期間中(昭和47年初め)は組立ラインに有鉛エンジンと無鉛エンジンが入り乱れていた時期があったので、エンジンのユニット号機(ユニットNo)で確認すれば間違いないです。無鉛化されてから30年以上経過した今、現存する車両もエンジンを載せ替えていたりしている場合もあるので、このほうが理に適ってます。
それでは有鉛仕様から無鉛対策を行った時のエンジンのユニット号機をご紹介します。
エンジン型式 | ガソリン仕様 | 対策開始エンジンユニット号機 | 代表車種(車両型式) |
---|---|---|---|
Y40 | レギュラー ハイオク*1,2 |
Y40 - 002505 | プレジデント(150) |
H30 | レギュラー ハイオク*1,2 |
H30 - 025520 | プレジデント(150)、ニッサントラック(C80) |
L26 | レギュラー | L26 - 001196 | セドリック・グロリア(230) |
L24 | レギュラー | L24 - 084927 | フェアレディZ(S30) |
L20 | レギュラー ハイオク*1,2 |
L20 - 356462 | セドリック・グロリア(230)、ローレル(C30)、フェアレディZ(S30) スカイライン(C10)、ブルーバードU(610) |
H20 | レギュラー | H20 - 374343 | セドリック・グロリア(230)、キャブオール(C240)、クリッパー(655) |
G20 | レギュラー | G20 - 027931 | ローレル(C30) |
G18 | レギュラー | G18 - 189259 | ローレル(C30)、スカイライン(C10) |
L18 | レギュラー ハイオク*1,2 |
L18 - 038212 | ブルーバードU(610) |
L16 | レギュラー ハイオク*1,2 |
L16 - 167638 | ブルーバード(510)、ブルーバードU(610) |
G15 | レギュラー | G15 - 271933 | スカイライン(C10) |
J15 | レギュラー | J15 - 156080 | ダットサントラック(620) |
J15 - 136469 | キャブスター(A321) | ||
L14 | レギュラー | L14 - 043243 | ブルーバード(510) |
A12(FR車用) | ハイオク*1,2 | A12 - 613858 | サニー(B110) |
レギュラー | A12 - 638894 | サニー(B110) | |
A12(FF車用) | レギュラー | A12 - 808954 | チェリー(E10) |
A10 | レギュラー | A10 - 061133 | チェリー(E10) |
A10 - 828286 | チェリーキャブ(C20) |
*1: |
ハイオク仕様かレギュラー仕様かの判別は、エンジンルーム内のモデルナンバープレートに記載されている「最高馬力」とキャブ仕様か、セットされている点火時期で判断する。 |
|
*2: | ステッカーは「有鉛」となるが、上記ユニット号機以降であれば、バルブシートは無鉛仕様となる。 |
基本的には、昭和49年11月末に発表した日産の対応方法に準じます。しかし有鉛ガソリンは昭和61(1986)年に国内では生産廃止となり、無鉛ハイオクガソリンが昭和58(1983)年から登場していますので、これらを考慮すると以下の様に対応すると良いと思います。
ステッカー | 使用方法 |
---|---|
高速有鉛 |
|
混合 |
↑ |
有鉛 |
|
いずれの場合もエンジン側の要求オクタン価にマッチした無鉛ガソリンを使用するのが基本です。バルブクリアランスは「詰まり側」に変化する傾向があるので、詰まり過ぎて突き上げ状態にならないように定期的にメンテナンスをしていれば大丈夫です。
クドイですが有鉛仕様エンジンに無鉛ガソリンを使用していると、バルブシートの磨耗が有鉛ガソリン使用時よりも早く、バルブクリアランスが詰まっていきます。これが進行すると、バルブが全閉しなくなり、以下のような現象が発生します。
いずれの場合も急には発生しません(数万キロ放置で発生の可能性アリ)が、該当する現象が発生する場合は、バルブクリアランスの点検、調整が必須となります。逆に言えば、上表に掲げたバルブクリアランス点検・調整を定期的(例えば車検整備毎)に実施すれば十分とも言えます。
ただし、バルブクリアランスの調整は限度があります。L型6気筒の場合、新車時から1.5mmまで変化させたところが限度値と言われていますが、これを超えても10回分くらいはOKだそうです。
なお、バルブクリアランスは詰まり側に変化していくので、騒音(タペットノイズ)が大きくなることはありません。
バルブシートを無鉛用の特殊合金鋼タイプに変更すれば、エンジン自体を無鉛化対策した事になります。バルブシートを交換するには、シリンダーヘッドを取り外し、エンジン加工業者(通称:ボーリング屋 or 内燃機屋)へ交換を依頼すればやってくれます。しかし、実際は有鉛車だからと言ってもあまり神経質になることはなく、バルブクリアランス調整が効かなくなった時点で検討すれば十分です。バルブクリアランス調整代が無くなった=十分走行距離が伸びた、と言う事になり、たとえ無鉛エンジンであったとしてもヘッドオーバーホールが必要な時期です。従ってヘッドオーバーホールのついでにバルブシートを交換すれば一石二鳥であり、適切なメンテタイミングと言えます。
有鉛ガソリン仕様車に纏わるQ&Aをいくつかご紹介します。
壊れません。昔は「壊れるかも」でしたが、結果的にはそんなにすぐには壊れない(有鉛ガソリンを入れ続けるのと大差ない)、です。普通に乗る分には無鉛ガソリンだけでOK。無鉛切り替えから随分経って残存車両も少なくなりましたが無鉛化後、当時のユーザーはタマに有鉛ハイオクを混ぜる(全廃までの移行期間=1987年頃まで)事はあっても、ほぼ無鉛ガソリンだけを入れていました。いちいち添加剤を給油の度に入れたり、お金を掛けて無鉛化改造(バルブシート交換)する人はごくごく一部だった、と言う事です。今でも無鉛ガソリンだけを入れ続けている有鉛仕様車は相当数現存します。下記は実例です。
有鉛レギュラー仕様車(510ブル)のユーザーが無鉛化後は添加剤などを加えずに普通に無鉛レギュラーだけを入れて乗り続けた結果、10万キロ以上問題無く走行、15万キロあたりの車検でHCがクリアできなくなった。愛着があったので廃車はせずにヘッドをO/Hして無鉛化して車検を継続、更に乗り続けた・・・
これは1990年前後のオールドタイマー誌で「どうやったら長く乗れるのか」的な特集の記事で読んだものです。その時は20万キロは超えていたように記憶しています。
HCが基準値に収まらなくなったのは、バルブ&シート面が密着しなくなったからだと思われます。
と言う事で、走行キロが10万キロを超えたエンジンで、出力不足やアイドル不調がキャブ/バルクリ調整や軽修理(バキューム漏れ修理など)で解消しない場合、または排ガスのHC濃度が車検に通らないレベルになったらヘッドをO/Hして無鉛化すれば良い、で十分なのかと思います。
ただし、スポーツ走行など高回転を使う場合は、エンジンへの負担が大きいので、早めの対策をしたほうが良いかもしれません。
この質問はYESもNOも回答できません。「有鉛/無鉛」と「ハイオク/レギュラー」は関連性は無くはないですが、それぞれ別の話ですので、混同しないように注意しながら、下記を守ってください。
特に有鉛ハイオク仕様車に無鉛レギュラーを入れてしまうと、オクタン価のアンマッチによるノッキングが増えてエンジン破損に繋がります。その車両がハイオク仕様なのか、レギュラー仕様なのか、十分調査したほうが良い場合もあります。スポーティグレードや上級グレードの多連装キャブのエンジンは大抵ハイオク仕様です。車両購入時、中古車業者の説明が間違っていた事例もあります。要注意ですね。
また、手前でも解説していますが、ガソリン無鉛化の過程で有鉛ガソリンはハイオクしか販売されなかった時期がある(レギュラーが先に無鉛化が完了した)ので、有鉛ガソリン仕様=すべてハイオク仕様と誤解されるケースが相当あったと思われます。
自動車用としては
日本国内では生産、販売が廃止され、現在では入手できません。下図はガソリン供給体制を図示したものです。切り替え後数ヶ月は流通経路での在庫品はあったハズですが、生産は停止しているので、それらが消費された時点で入手はできなくなっています。
また、レギュラーは一気に切り替わったのに対し、ハイオクは3年ほどかけて移行しています。昭和58(1983)年に日石と出光から無鉛ハイオクが発売されますが、他社は引き続き有鉛ガソリンの供給だったので、「ちょっと遠いが〇〇GSなら有鉛ハイオクが手に入る」的な事例が結構ありました。そして法的にも有鉛禁止、完全無鉛化されるのが昭和61(1986)年になります。
そんなのウソウソ。上のほうでも書きましたが、無鉛レギュラーでOKです。「高速有鉛」の車両は有鉛レギュラー仕様の車両に貼付されています。だからハイオクは必要ありません。セドグロ230ではシングルキャブ車は全部コレです。
個人的にも極タマに聞く話ですがNOです。大昔に似た商品がありました。「モー〇ーロイ」。でもあれは錫が主成分だったような?? ガン玉を入れても有鉛ガソリンになる訳ではありません。都市伝説というかなんというか・・・(笑)
有鉛ガソリンは前述の通り、四エチル鉛を添加したガソリンです。化合物で特定毒物として法規制もされている四エチル鉛 (Pb(C2H5)4 )は、素の金属の「鉛」(Pb)とは別物ですし、気軽に販売もできません。金属の鉛をガソリンに漬け込んだところで四エチル鉛になるわけでも無く・・・
と言う事で迷信です。
本ページの主旨と若干逸れますが、 故障します。無鉛ガソリン指定の車両は1970年代後半ですが、奇しくも(?)、ほぼ同時に排ガス規制でキャタライザー(触媒)が装着されています。触媒の機能維持には無鉛ガソリンが必須であり、有鉛ガソリンが仮に入手できても使用してしまうとキャタライザーが故障します。そもそも日本国内では今、有鉛ガソリンを給油できないに近いので、「もし給油出来たら」という話です。
そのエンジンの要求オクタン価(ハイオク仕様かレギュラー仕様か)をきちんと把握し、見合ったオクタン価の無鉛ガソリンを使っていれば問題ありません。添加剤の注入やバルブシートを交換しないとすぐ壊れるなどは誤解です。その代わりバルブクリアランス点検・調整のサイクルを気にする必要がありますが、通常のメンテナンスの範囲で省略せずに行えばよいので、そう神経質になることは無い、と言えます。
このページをアップする直前の2000年頃、当時はウィキペディアもYaooh!知恵袋のようなO&Aサイトも殆ど無い状態で、ネット上には 有鉛ガソリン仕様車に対する情報は間違ったものも多く、必ずしも十分ではない様に思いました。そこで当時の資料を入手できたのでので、これをもとに現在の視点からまとめてみました。このページのアップ後、有鉛ガソリン関連のWebサイト記事は当サイトを参考に作成されたと思われるものが多数アップされています(ウィキペディア等)。これにより間違った情報はかなり少なくなったと思います。旧車と上手く付き合う予備知識として活用されては如何でしょうか。
有鉛ハイオクガソリン国内供給廃止時期、無鉛ハイオクガソリンの国内供給開始時期について、Mさんより情報を戴きました。ご協力、厚く御礼申し上げます。
日産サービス回章 No.700 (昭和49年11月)
情報提供いただいたMさんより、ステッカー画像を加工したものを送っていただきました。お遊びになりますが、こんな感じに加工して実車に貼ってみるのもいいカモ。