旧車は殆どがキャブ仕様。キャブ自体は現在でもあるシステムですが、色々種類があって、始動方法がそれぞれ違います。230も例外ではなく、エンジンやグレードによりシステムが3種類存在し、始動方法も違うのです。取扱説明書が無く、間違った始動方法をされている方も見受けられますので、ココでは始動方法を掘り下げて考えてみます。
白墨ではありません(笑) “choke”とはキャブレータ仕様車において、吸入空気を調整して空気-燃料比(空燃比)を濃くする装置です。ガソリンエンジンは冷えている時(冷機時)、空燃比を濃い目にしないと燃焼し難いので、冷機始動時から暖機(ウォーミングアップ)完了までは作動させる必要があります。
キャブの入口にチョークバルブがあり、作動させると閉じ方向に動きます。閉じる事により空気の流量を減少、流速を増加する(燃料の吸い出しが良くなる)方向に調整されます。これはキャブ特有の装置で、インジェクション(電子燃料噴射装置)システムにはありません。とは言え、インジェクション車もコンピュータが水温などを感知して、必要な条件のときにインジェクタからの噴射量を増やしている(または補助インジェクタが作動して噴射量を増量する)ので、名前は違っていても結果的にやっている事はチョークみたいなものです。
チョーク作動中はエンジン回転が高くなります。これはチョーク効果によるものではなく、チョークと連動してファーストアイドル機構と言うものが作動しているからです。ファーストアイドル機構とはアクセルを少し踏んだ状態を作り、エンジン回転の安定化(冷機時は回転をやや上げておかないと安定しない)と、暖機の促進を行います。ファーストアイドル機構そのものは作動しても空燃比は変化しません。やっている事がチョークとは違いますが、作動タイミングはほぼ完全に連動しており、分類上はチョークの補助機構として扱われます。
チョークはエンジン冷却水温や外気温度に応じて効き具合を変える必要があります。エンジン冷却水温&外気温が低い時は目一杯作用させる必要がありますし、逆にエンジンが暖まった後での再始動や、真夏の炎天下時などではチョークは不要です。このような効き加減を手動でやる手動チョークと、自動的にやってくれる自動チョーク(オートチョーク)があって、自動チョークはその中でも半自動チョーク(セミオートチョーク)と、全自動チョーク(フルオートチョーク)とに分けられます。
(1)手動チョーク
運転席にレバーやボタンがあって、必要に応じて操作します。ノブの操作量でチョークの効き加減を調節する事ができます。運転者がエンジンの冷却水温や外気温度等から操作量を判断しなければなりません。更にエンジンの暖機(ウォームアップ)状態に合わせてノブを戻して行き、暖機後は完全に戻さなければならない、と言う面倒臭さ、難しさがあります。操作量を間違えると始動できませんし、暖機後もチョークを効かせたまま運転していると、エンジン不調のみならず、燃費悪化、オイル劣化、エンジン磨耗の原因になります。
(2)セミオートチョーク
手動チョークの操作をなくすために、まずはセミオートチョークが開発されました(フルオートチョークはかなり後になって登場した為、初期の「オートチョーク」はすべてセミオートチョークを指します)。昭和40年代の旧車のオートチョークはすべてこのタイプで、230もデラックス系とGL、2600GXが該当します。チョークノブはありません。ただし半自動ですから、チョークのセットは完全に不要と言う訳ではなく、チョークノブ操作の代わりにアクセルペダルの操作が必要です。
- エンジン始動時・・・ チョークをセットする為に、アクセルペダルを最低1回(寒冷時は2〜4回)、全開まで踏みます。次にアクセルペダルを踏まない状態でセルを回して始動します。
- 暖機中・・・ 始動後、エンジン回転が1000rpm以上でアイドリングを始めます。暖機が進むと回転がだんだん上がっていくので、一回空吹かしをすると回転が少し下がります。そのまま放置するとまた少しずつ上がるので、上がったら空吹かし・・・ と言う具合に何度か繰り返します。
※厳密に言うと自動的に解除されるのはチョークバルブだけで、ファーストアイドルがアクセル操作で解除されます。だんだん回転が上がるのはチョークバルブが自動的に解除方向に作動したからで、空吹かしすると回転が下がるのは、ファーストアイドルが解除されたからです。この様に、チョークの作用加減だけが自動となり、最初のセット、ファーストアイドル解除はアクセルペダルで行います。このシステムだとチョーク操作ミス(ノブ操作加減のアンマッチ)での始動不良や、チョーク戻し忘れなどは完全に排除する事が出来ました。
(3)フルオートチョーク
ほとんどインジェクション車と同じで、セミオートチョークでやっていたアクセル操作も特に不要になります。電子制御キャブレータは大抵この仕様になります。
130〜330チョークタイプ一覧 チョークタイプ
モデル (*1) 130 A30 230 330 手動チョーク スタンダード
スペシャル6(ツインキャブ)
GL(ツインキャブ)スタンダード スタンダード
2000GXスタンダード(4気筒) セミオートチョーク パーソナル6
デラックス6
パーソナルデラックス
カスタム6
スペシャル6(シングルキャブ)
GL(シングルキャブ)スーパー6
スーパーデラックス
GLデラックス
カスタムデラックス
スーパーデラックス
GL
2600GXスタンダード(6気筒) (*2)
デラックス(*2)
カスタムデラックス(*2)
GL(*2)
SGL(*2)フルオートチョーク (*4) スタンダード(6気筒)(*3)
デラックス(*3)
カスタムデラックス(*3)
GL(*3)
GL-E
SGL(*3)
SGL-E系
ブロアム*1: レアなグレードは省略しています。
*2: 330、331に適用
*3: 332に適用
*4: インジェクション車は厳密言うとチョークは付いていませんが、機能的に近いフルオートチョークに分類しました。
230のデラックス系とGL、2600GXはセミオートチョークである事は上で述べましたが、チョークみたいなノブがついています。実はこれはチョークではなく、「スロットルコントロール」と言います。アクセルを踏んだ状態を保持する装置で、回転を上げて暖機を早めたい時や、何らかの理由でアイドルが効かない場合、または回転を上げたままにしておきたい場合(オルタネータの発電量を確保するとき)などに使います。アクセルを踏んだ状態を作るだけですから、空燃比は変化しません。これを装着しているクルマは基本的にディーゼルエンジン車ですが、セドリック130とセドグロ230ではガソリンエンジンのオートチョーク車でも採用されています。
クドイようですが、これはチョークではありません(笑) なお、ノブの取り付け部位、形状はチョークとほぼ同じです。ただしノブにある絵表示はチョークとは微妙に異なり、基本形は下図のようになります。 |
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始動時の環境や車種の違い、個体差などで微妙に異なりますが、メーカー推奨の操作方法に実践的な方法を加味すると以下のようになります。
230は2000GXのみ該当します。SUツインキャブは大抵上級グレード車に装着していますが、手動チョークが基本です(仕様上、バランスが崩れやすい為だと思われます)。
(1)冷機時
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(2)暖機後の再始動時、夏季の始動時
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230ではスタンダード系の車両が該当します。SUキャブの場合と殆ど同じ。
(1)冷機時
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(2)暖機後の再始動時、夏季の始動時
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230ではデラックス系、GL、2600GXです。当時のクルマの大半はこの仕様ですが、珍しくスロットルコントロールノブが付いていて、エンジン回転数を手動調整出来ます。
(1)冷機時
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(2)暖機後の再始動時
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オマケ情報 〜 暖機後、走りはじめるタイミングはいつ? 〜 どのクルマにも当てはまることですが、特にキャブ車はある程度暖機してから走り始めたほうが良いです(運転性、エンジンの磨耗、オイルの劣化などの点において)。停車状態でエンジンを回す訳ですから、やり過ぎは燃料も時間も勿体無いし、環境面でもバツ。しかも暖機が必要なのは、エンジンだけでなく、ミッション、デフなどのパワートレーン系なども必要ですが、これは走らないと出来ません。 “落としどころ”としては、水温計が動き始めたあたり(水温=約50度)で走り始めるのが良いようです。そして、水温が安定するまではフルスロットルなどの全開加速は控えた走行をします。 ただし、後述のアイシング発生時は、アイシング悪化による運転性悪化を防止する意味もあり、もう少し時間を掛けて停車状態(ガソリン消費が少ない状態)で暖機運転するのが良いようです。 |
オマケ情報 〜 早く暖機させるには 〜 停止状態でなるべく早く暖機を終わらせるには、
の2点を心がけると良いでしょう。特に冬季、冷機状態でヒータを掛けるとヒータコアの水も循環されるので、水温の上がりが悪くなります。なお、230のエアコン無し車、汎用エアコン車、リヤクーラ車などのヒータはワイヤ制御式なので、このような車両はTEMPレバーをフルコールドにしておかないとブロアOFFでも水が循環してしまいます。
暖機時にエアコン(冷房)やクーラをONしておくと、コンプレッサ:ONによりエンジン負荷が多少増えるのでやや早く暖まります。コンプレッサはタマに作動させればガス抜け防止、コンプレッサ固着防止になるので一石二鳥です。 |
基本編をベースに、特別な環境下での始動〜暖機運転のお話です。ココでは230 L6シングルキャブのセミオートチョーク車を例にとります。なお、基本編でも述べた通り、環境差や車種間での差、同一車種でも個体差がありますので、ドンピシャで使えるとは限りません。ココで書かれている事を参考にしながら実車で一番良い操作を見つけると良いと思います。
(1)冬季の降雨(低温多湿)時の始動〜暖機
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(2)夏季(高温)時の始動〜暖機
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(3)プラグがかぶった時の始動 ちょっと判断が難しいですね。ガソリンを吸込み過ぎで過濃空燃比による始動困難時には以下のような始動方法を取ります。
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1970年代半ば以降は排ガス規制の絡みで、暖機後の再始動性がやや悪くなりました。当時の取扱説明書や雑誌などでも、「エンジンが冷え切っていない時は、ややアクセルを踏んだ状態でセルを回すと良い」と言う表現を極普通に見かけたものです。
エンジン停止から30分程度経過後の再始動や炎天下での始動性は、130や230中期以前のL20シングルキャブと230後期(48年規制車)L20シングルキャブとを比べた場合、確かに後者のほうがやや始動性は悪い気がします。
排ガス対策車はなぜ始動性が劣るか? 追加された排ガス関連デバイスの影響と思われます。もともとキャブ車は暖機後再始動は少々条件が厳しいので、チョーク不作動時はアクセルを踏みながらセルを回すと良いです。
この影響なのか当時は、冷機暖機問わずアクセルをやや踏みながらエンジンを掛ける人が多かったようです。シビアな操作が面倒な場合は、これでも良いかもしれません。
イグニッションスイッチをOFFにすればエンジンは止まるので、大した事ではないハズです(笑) でもこの時に、アクセルを煽りながら(エンジン回転数が高い状態で)イグニッションOFFにする人が結構います。ちょっと走りにこだわっている人に多い傾向にあり、タマに整備士もいます。多分、燃焼室の燻りを掃うつもりなのでしょうが、逆効果の原因になり、良い事は無いのでやめましょう。
アクセルを煽りながらイグニッションOFFにする時の状況を詳しく見ると、次のようになります。
加速ポンプから燃料噴射 → 出力空燃比(加速時に必要な、通常よりやや濃い目の空燃比)になる → この状態で点火を切る → 燃焼室は出力空燃比状態で点火停止 → ややかぶり気味で停止 or 自然着火が発生しランオン(*)
次の始動の準備としてはNGです。すぐ再始動しようとすると過濃空燃比で掛かりが悪くなる原因になります。
エンジン停止はアクセルは全閉&アイドル回転数に落ち着いた状態でイグニッションをOFFするのが一番良い停止方法です。かぶりや燻りが心配なら、一旦勢い良く空吹かしした後、回転が落ち着いてからOFFするべきだと思います。
*: ランオン・・・イグニッションをOFFしてもエンジンがすぐに止まらず、数秒間回転する現象。自然着火で燃焼していて、ディーゼルエンジンの燃焼方式と同じ事から「ディーゼリング」とも言います。もちろんガソリンエンジンでは異常燃焼の一つに挙げられます。