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LSD純正流用

適用車種 130〜Y31(H190系デフ装着車)
難易度指数:3 純正で他車流用を考えます。

1.目的

私の場合は、ドリフトをやる訳でもないので、いらないと言えばいらないのですが、雪道・ぬかるみ等悪路での威力を発揮するのでは?という好奇心で装着を考えました。

 

2.デフ(ファイナルドライブ)に関する一般知識

まずは、ノーマルデフやLSDの原理・・・ん〜、これは割愛させていただきます(笑) 普通、デフと呼んでいるこの部品、アッセンブリーの状態を「ファイナルドライブASSY」と言う名称でお話を進めさせていただきます。

部品構成に関しては下図をご覧下さい。


H190A型ファイナルドライブASSY(機械式LSD付き)構成図

古いセドグロのファイナルドライブはH190型と言う型式のタイプが使われています。H190と言う意味は下の画像のようになります。

H190型であればどれでも流用可能とは限らず、ファイナルギヤ比(最終減速比)、コンパニオンフランジ形状、サイドギヤに嵌るアクスルシャフト(ドライブシャフト)直径等によって種類があります。ですので、他車流用の場合はファイナルドライブ型式が同じでもこれらの相違を確認しなければなりません。セドグロ同士であれば、ファイナル比、コンパニオンフランジ形状のみを合わせれば大抵はOKです。

なお、H190をベースにした改良バージョンのH190A型があります。採用されたのは430末期から。ASSYでなら互換性がある場合が多いですが、内部構成部品単位ではナシです。

その他、年式によって微少な変更があります。

セドグロ用H190系ファイナルドライブに採用された主な最終減速比
ファイナルギヤ比 3.889 4.111 4.375 4.625
リングギヤ歯数:ドライブピニオンギヤ歯数 35:9 37:9 35:8 37:8

※ ファイナルギヤ比は一般的にエンジン出力、ミッションのギヤ比、車重、タイヤ外径などで決まるが、車種・年式で異なるので都度調べなければならない。

ファイナルギヤ比を変更すると性能上、バランスが崩れるので基本的にはオススメしません。もし変更する場合は、1サイズ以内が望ましいと言えます。ファイナル比と変更した時の性能の関係は以下の通りです。

  燃費 加速性能 登板力 静粛性
ファイナルギヤ比: 小 X X
ファイナルギヤ比: 大 X X

また、タイヤ外径変更と同じ効果が出るので注意が必要です。具体的にはミッションにあるスピードメータ用ギヤのギヤ比も変更しないと、メータ誤差が増えて車検にも通りません。

それでは実車のファイナルギヤ比をどうやって確認するのか? リングギヤ外周部側面にはこれの打刻はあります。しかしこれではファイナルドライブを降ろさなければならない・・・。 これはちょっとやってられませんね〜
最近(セドグロで言うとY30あたりから)の車種ではモデルナンバープレート(*)の「アクスル」の項目の記号を読めば判読可能です。右がその解説になります。

それ以前の車両では降ろすか、資料と照合させるしかありません。

* : モデルナンバープレートはセドグロならエンジンルーム内にある、アルミ製の打刻プレートです。これには車台番号、型式のほか、ミッション型式、アクスル(デフ)型式、内外装色番号などが記載されています。

 

3.部品の選定

機械式LSDが比較的古くから設定あり(ビスカス式は無し)、ニスモからノーマルのファイナルドライブを使用して、デフケースおよびその内部構成部品をLSD仕様にそっくり組替えるキットがありました。純正のライン採用は私の知っている限りではシルビア&ガゼールS110系と、Y31営業車(LPG車のみにH190A型を使用)、K30(クルー)があります。H系ファイナルドライブは分解すると組み立てが難しい(ファイナルギヤのバックラッシュ&歯当たり&プレロード調整をシムの増減で行う必要がある)ので、正直言ってニスモのキットはちょっと面倒。その前に製廃だったっけ? そしてS110系ではH190を搭載車種がレアなグレードになり、S110自体もレア車であることから検討対象外、K30はあまり台数がなく、ファイナル比もちょいと違うので、残るY31用H190A型で検討してみようと思います。

Y31営業車(タクシー用)では、悪路走行を考慮して機械式LSDがラインオプションで設定があります。年式的にも現行のものになり、新品供給状況も問題ないハズ。中古品も雪国(&山岳地帯)ではひょっとすると見つかるかもしれません。

Y31営業車仕様の中から、機械式LSDの設定があるものを抜粋すると、下表のようになります。

 

Y31営業車用LSD付きH190A型ファイナルドライブ
部品番号 38300-V7312 38300-V7412 38300-V7512
歯数比 4.111 4.375 4.625
エンジン NA20P NA20P RB20P
その他の仕様   急登坂仕様  
適用年 93.06〜 93.06〜95.08 99.08〜
新品価格 約13万円
その他 ABS無し
使えそうなLSD付きファイナルドライブはこの3種類。

H190系ファイナルドライブは、ABSの有無でギヤキャリアの長さが違います。これはABS用の回転センサがギヤキャリア前方のコンパニオンフランジ付近に取り付けられているからです。ABSの有無でファイナルギヤ全長も異なる(アリが長い)ので、ABSのない私のクルマの場合は、ABS無車用の部品で検討しました。

また、上記部品を他車種に使用する場合、プロペラシャフト型式が違うとそのままでは付きません。コンパニオンフランジを元の車両のものに付け替える事で装着可能となります。

230〜430の場合のコンパニオンフランジや、交換作業に伴う再使用不可部品等は以下の通りです。

部品名 コンパニオン フランジ ギヤ キャリア ガスケット LSD オイル LSD ラベル
部品番号 38210-P0103 38320-B3002 (ニッサン ギヤ オイル ハイポイド゙LSD GLー5 80W-90相当品) 38303-10V02
概算価格 3,000 1,000   250
備考

130の場合は、ノーマルの部品は使用せず、この部品を使用する。

  0.9L “USE ONLY LSD OIL”と記載

 

4.やってみました

230GX、4速フロアシフトM/T車で試してみました。ファイナル比は4.111ですので、ファイナルドライブは部番:38300-V7312にコンパニオンフランジを変更して取りつけます(いずれも新品を使いました)。

この作業をやったのは99年1月。スイマセン、まだHP開設前の話で画像がありません・・・ 

まずはコンパニオンフランジを交換から。

交換手順は、ナットを外してからフランジを抜くだけ。ただしY31のH190A型の場合は、以下のようにオイルシール形状が2種類あるので注意が必要です。

左側の扁平なタイプならOK。91年6月以前か99年8月以降に採用されています。右側のタイプは91年7月〜99年7月生産分で全部ではありませんが使用されています。左のタイプよりリップ部が長いのが特徴ですが、このタイプはNG。コンパニオンフランジ形状との相性が良くないので変更が必要になります。見分け方は、実際にコンパニオンフランジを外してから確認するしかありません。右のタイプが組まれているファイナルドライブだった場合は、左のタイプに変更となりますが、部品番号は38189-P0101となります。

今回使用した新品のLSD付きH190Aは左側のタイプのオイルシールが装着されていたので、そのままパス。

なお、中古のH190Aを使用する場合は、このオイルシールは分解ごとに要交換です。たとえオイルシールのタイプがOKのものであっても。
理由はこの部分の分解に関係します。H190Aの場合はコンパニオンフランジを2回以上脱着する作業があった場合、ドライブピニオンを分解して、スペーサ(コラムプシブルタイプ)を交換しなければなりません。このスペーサはコンパニオンフランジのナットを締めつけると、自身が変形してベアリングにプレロードを発生させますが、何度も分解するうちに変形しきって規定のプレロードが得られなくなります。プレロード不足のまま組むと、ベアリング異常磨耗、破損等に繋がります(もしかするとバックラッシュにも影響するかも)。「オイル漏れしたらその時に交換すればいいや」なんて思っても、その時は結構面倒な作業になります。まぁ、入手以前に分解歴があればスペーサ交換なんですが(苦笑)

オイルシール、コンパニオンフランジを交換したらナットを約15kg-mで締めつけます。後は、普通のASSY交換と同じ要領で作業を行います。

ASSY交換の手順を簡単に書くとこんな感じ。

  1. プロペラシャフトを外す
  2. デフオイルを抜く
  3. リヤホイールシリンダ部のブレーキチューブと、サイドブレーキロッドを切り離す
  4. リヤアクスルシャフト取付ナット(4コX2)を外し、シャフトをブレーキごと抜く
  5. ギヤキャリア取付ナットを外す
  6. ギヤキャリアとアクスルケースとの合わせ目をこじりながらファイナルドライブを降ろす

※せっかくココまでバラすのなら、アクスルシャフトのオイルシールは交換したいです。もしココからオイルが漏れると、アクスルシャフトベアリングの寿命が縮まります(封入されているグリスが洗い流される為)。このベアリングって、部品代はそれ程でもありませんが、交換はチョー大変です。

取付はこの逆の手順で行います。デフオイルは必ず機械式LSD対応のものを使用します。ブレーキは油圧ラインを切り離しているので、エア抜きを忘れずにやらないと・・・

 

5.効果の確認

機械式LSDですから、旋回時は作動音が発生します。これは仕方ありません。新品から使用すると、“アタリ”が出るまで作動音は変化します。ゴキゴキ、キューと言った音色です。アタリが付けばそれ程気にならなくなります。あと、直進時にも少しコトコト音が出るかな・・・

乗った感じでは、普通の舗装道路を普通に走れば音以外は何も変化ありませんが、悪路を走ればやはり助かります。もちろん雪道でも。

 

6.最後に

今回は新品のLSD付きH190A型ファイナルドライブを使用しました。でも定価で買うには勇気要りますね。もちろん私も定価で買った訳ではありません(笑) ニスモのLSDキットを組む感覚で中のデフ構成部品だけY31LSD仕様の部品を取り寄せて、実車のファイナルドライブをオーバーホール対応する方法は恐らくNGです。これは「デフに関する一般知識」でも述べた通り、H190とH190Aは内部構成部品での互換性はない為です。LSD無しの中古Y31用H190Aをベースに、Y31用LSDデフケース(&その中身)を新品調達し、合体させる方法はアリだと思います(Y30用H190A型ファイナルドライブをベースにする場合、リングギヤ取付ボルトのサイズがM12でないとNG)。この方法だと部品代は約10万円。まだ高けぇ(笑)
一番作業的に楽でかつ費用を掛けずにこのLSDを入手するには、このデフがついたY31タクシーの解体車を見つけることでしょうね。

では、どうやってLSD付きか否かを見分ける?? サイドブレーキをフリーにして後輪を手で回してみる→手で回した側と反対の車輪がどちら向きに回るか・・・ 同方向ならLSD付き、逆方向なら無し。これが一番確実です。モデルナンバープレートの「MODEL」の部分に記載されている型式(日産社内記号)を見ればわかるのですが、年式によって見分ける桁や記号(アルファベット)が異なるので、ここでは記載できません。

タクシーでLSD付きなんてなかなかありませんね。豪雪地帯でなら可能性が高いような感じはしますので、その地方の方は探して見る価値はありそうです。

 

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