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SUツインキャブ調整

難易度指数:5に近い4 時間と経験とカンが必要

キャブの調子が悪いと、エンジン不調となってまともに走らなかったり、ガソリンを食うようになるばかりか、排ガス中の未燃焼ガス(HC)や一酸化炭素(CO)が増えて、環境汚染の手助けをしてしまう結果になります。

ここでは昭和48年排ガス規制適合のSUツインキャブ*の画像を例に、未対策車、48年規制車それぞれの調整方法をご紹介しますが、少し難しいものと思って下さい。

*:SUキャブのSUとは開発したメーカーの「スキナー ユニオン社(英)」の頭文字から由来しています。ベンチュリが動き(可変ベンチュリ)、常に一定のエアの流速を保ちながらガソリンを吸い出すのが特徴で、アイドルから高回転まで1つのノズルでガソリンを供給します。加速ポンプも必要なく、シングルキャブ(ストロンバーグキャブ)に比べ構造がシンプルです。ストロンバーグキャブより滑らかな運転感覚を持ち、ツインキャブにすることで滑らかでかつ大きなパワーを引き出すことが出来ます。日産車では特に60〜70年代のスポーティーグレード車、最上級グレード車に多く採用されました。しかし構造がシンプルであるがゆえに組み立て&調整が非常にシビアで、微妙な空燃比制御も難しいことから排ガス規制を乗り切る事が出来ずに消滅しました。

 

調整手順の主な流れ
アイドリング時(アクセル=フリー)のキャブのスロットル開度を合わせる
少しアクセルを踏んだ状態のスロットル開度を合わせる
空燃比(ガスの濃さ)を合わせる
排ガス対策装置&A/Cアイドルアップの調整をする

 

調 整 箇 所

調整手順に入る前に、調整スクリューのご紹介。こんなにあるんです(汗) 

 

番号 調整部位の名称 役割 締め込むと・・・ 備考
(1) スロットル アジャスト スクリュー  前後のキャブにあり、個々のキャブのアイドル時のスロットル開度を調整 開度大(回転が上がる) 48年規制車はロックしてあり調整不可
(2) バランス スクリュー アクセルを踏んでいる時の前後スロットル開度のバランスを調整 フロントキャブのみ開度が大  
(3) スロットルオープナ アジャスト スクリュー 急激にアクセルを放した時に、一定時間スロットルを開いたままの状態を維持する開度を決める(時間の調整は別にあり) その開度が大きくなる 48年規制車のみ(排ガス対策装置)
(4) ファーストアイドル セッティング スクリュー (2)の調整をする時にアクセルを踏んだ状態をつくる 回転が上がる 普段は充分に緩めておく
(5) ダッシュポット アジャスト スクリュー アクセルを放した時の回転の下がる早さを調整する ゆっくり下がる様になる  48年規制車のみ(排ガス対策装置)
(6) アイドル スピード スクリュー(ISS) エンジンの回転数を調整する 回転が下がる 48年規制車のみ
(7) アイドル ミクスチャ スクリュー (IMS) 空気対燃料の比率を前後キャブ同時に調整する ガスが濃くなる 48年規制車のみ
(8) アイドル アジャスト ナット 個々のキャブの空気対燃料の比率を調整する ガスが薄くなる  

※以下、名称の長い調整スクリューは番号でご説明する場合があります。

アイドル回転数規定値
  未対策車 48年規制適合車
M/T車[rpm]
A/T車[rpm]
(Nレンジ)
M/T車[rpm] A/T車[rpm]
(Nレンジ)
コンプレッサOFF  550 700 650 700
コンプレッサON 800

 

1.未対策車(47年以前)の調整

※このタイプは(3)(5)(6)(7)の各スクリューがありません。

1−1.アイドル時のスロットル開度及び回転数調整

1−2.アクセルを踏んだ時のスロットル開度を前後等しくする

1−1では、アクセルを踏んでいない状態でのスロットルを調整しました。次は踏んだ状態です。

1−3−1.ガスの濃さを調整する(その1)

(8)で空気対燃料の比率(空燃比)を調整します。図は48年規制車のもので、47年以前のものは少し形状が違います。
また、これは逆さまにして見た状態で組み付けるので、上から見た状態で回す方向に注意します。
 時計回り ・・・ ナットは下がる(緩む) ・・・ 燃料は濃くなる
反時計回り ・・・ ナットは上がる(締まる) ・・・ 燃料は薄くなる

この関係を踏まえて、完全暖機後に調整します。大体のベストポイントと言うのはナットを目一杯締め込んでから約2回転戻したあたりであって、外気温によっても左右されます(寒い時ほど濃い目)。その付近で締めたり緩めたりしながら、最も回転が円滑(スロットルをいじっていないのに最も回転が高く、かつエンジン振れが小さく)なるところを探します。これがベストポイントと言うよりも、ある程度ゾーンがあるので、その範囲でなるべく薄目(締め気味)にすれば燃費向上も期待できます。

1−3−2.ガスの濃さを調整する(その2)

1−3−1では単に最も円滑に回転するポイントを前後のバランス抜きで探しました。でもコレだけでは完全ではありません。2つのキャブのバランスも考えないと、、「アイドリングでは円滑だが、アクセルを踏んだ瞬間だけ息つきする」現象がでます。これも、スロットルのバランス調整の時と同じ、まえ3気筒、うしろ3気筒で発生するトルクが異なるのです。ガスの濃さのバランス調整はスロットルの時のように、測定器具が使えないので、カンが頼り。

ただし、どんどん一方方向に回してしまうと、せっかく1−3−1で調整した時のベストゾーンから外れてしまいます。例えばフロントキャブを30度締めて息つきが少なくなり、更に締め込みたいと思っても、フロントキャブばかり絞ってしまうことにになり、薄過ぎになってしまいます。こう言う時は次のどちらかのようにします。

結局↑の2点は結果は同じになるのですが、不慣れなうちは前者、慣れれば後者のやり方が良いと思います。でもはっきり言って面倒です。時間が掛かります。SUツインキャブ調整の一番難しいところと言えましょう。
こんなもんかな?と思ったら試運転→微調整→試運転と繰り返し最も具合の良い点を探して行くのです。状況によっては調整も1−3−1とこの1−3−2、交互に繰り返しながら行い、もしアイドル回転数が変わってしまったら、また1−1 or 1−2からやり直しです・・・(+_+) 

なお、排ガスの規制値はCO:4.5%、HC:1200ppmです。特にCOが3〜3.5%くらいならOKとします。

ワンポイントアドバイス その1
アイドルアジャストナット、IMSはベスト位置から緩み方向、締め方向どちらにずれていてもアイドル時のエンジン回転はスムーズではなくなります。調整時は とにか最も回転が高くなるところを探します。そして更にその範囲でもなるべく薄くするのが良といわれます。

ワンポイントアドバイス その2
上記のような調整で車検に挑んだ場合、各部がへたり気味のエンジンではパス出来ないことがあります。触媒のない48年規制以前の車両では元々規制値スレスレなので余裕がありません。こんな場合は以下の様にします。
  1. アイドルアジャストナット、IMSを調整してやや薄目にする
  2. ファーストアイドル セッティング スクリューを締め込んで、アイドル回転数を800〜1000rpmくらいにする

ガスを薄くするとCOが減少しますが、ラフアイドルとなるので今度はHCが増大します。そこでアイドル回転数をやや高めにしてやれば安定度が増すのでHCが元に戻ります。SUキャブはCOが特に苦手で、排ガス検査でNGになる可能性は高いと言えます。タマにバキュームホースを抜いたりする話を聞きますが、一時的とはいえあまり適切な処置とは思えず、エンジンルームの目視検査でも引っ掛かります。

また車検後は元に戻さないと、運転性不良の原因となります。

1−4.A/Cアイドルアップ回転数の調整

エアコン(クーラ)コンプレッサがONになった時の回転数を調整します。

2.48年規制車の基本的な調整

いや〜、↑の説明、めんどくさいですね〜〜〜 48年規制車は、排ガス減少装置の調整が追加になりましたが、基本的なキャブ調整に関しては「ちょこっと調整するだけで“おおごと”になる」と言う難しさ・めんどくささを若干ですが改善し、簡単になりました。

2−1.アイドル時の回転数調整

48年排ガス規制車では個々のアイドル時の吸い込み量がメーカー出荷時に調整されていて(1)が容易に調整出来ないようにカシメられています。従がって(1)の調整は不要です。その代わり回転数の調整は(6)のISS(アイドルスピードスクリュー)で行うことになりました。
このISSの経路はスロットルをバイパスする通路で48年規制車に増設されました。両者の比率はスロットル経路7、バイパス経路3の割合で混合気が流れ、前後のバランスを考えることなく1ヶ所で調整できるようになりました。
調整方法は次の通りです。

2−2.アクセルを踏んだ時のスロットル開度を前後等しくする

1−2とまったく同じです。エアクリーナアッパーケースはここで外します。


2−3.ガスの濃さを調整する

これも1点調整式が採用され、(7)のIMS(アイドルミクスチャスクリュー)で行います。

2−4.排ガス減少装置の調整をする

A.ダッシュポット

基本的にはシングルキャブと同じです。調整方法は「セット回転法」と「タッチ回転法」の2つがありますが、セット回転法のほうが好ましいと言われています。このやりかたはシングルキャブ調整に説明があるので、そちらをご参照下さい。

そしてここでは「タッチ回転法」を簡単にご説明致します。

B.スロットル オープナー

サーボダイヤフラムとバキュームコントロールバルブで構成されており、シングルキャブ車のBCDDに相当するものです。ただ、BCDDの様にスロットルバルブをバイパスして混合気を供給するのではなく、スロットルバルブを直接開いてエンジンブレーキ時のHC増加を防止します。

調整方法は次の様になります。(完全暖機後に行う)

 

3.48年規制車のちょいと突っ込んだ調整

多少くたびれてくると、2のような基本調整では調子がでなくなります。そこで、47年以前のように、バラで調整します。

3−1.アイドル時のスロットル調整

2−1で述べたようにアイドル時のスロットル開度の前後のバランスは製造時にメーカーで調整してあって特に調整不要、というか調整出来なくなっています。しかしそのバランスは新品時に取ったもの。使い込んでスロットル周辺が磨耗してくるとバランスがズレ始めます。
そこで、前後キャブのどちらか一方のスクリュ−(1)を外し、調整可能な様に加工します。右図の左側は外した直後のもの。調整出来ない様にドライバーを指し込むところが樹脂で埋められていて、ロックナットで固定されています。それを右側の様に樹脂を除去、スプリングを入れて組めば調整可能となります。

調整方法はリンクを完全にフリーの状態(アクセルOFF)で、1-1の様にキャブバランサで吸い込みを同じにします。

 

3−2.アイドル時の回転数調整

2−1と同様に、ISSで回転数を調整しますが、だいたいISSは全閉から0.5〜1回転戻し付近のところで規定のアイドル回転になるくらいが良いと思います。スロットルシャフトが磨耗してくると、ISS全閉でも規定値以下にならなくなるので、その場合はISS系統を使用せず(目一杯締め込んだままにする)、スロットルだけで調整するしかありません。

3−3.アクセルを踏んだ時のスロットル開度を前後等しくする

1-2または2−2と同様に、回転を上げた状態で吸い込み量を同じにします。

3−4.ガスの濃さを調整する

基本的には1−3−1と1−3−2と同じです。前後同時に濃さを調整するなら、2−3でご紹介した(7)のIMSで充分ですが、前後のバランスが狂った場合は、47年以前のタイプの様に、個々の濃さ、つまり(8)の調整をします。48年以降の(8)ではリッミタがついて、1回転分しか回す事が出来ませんが、状況によってはそのリミッタを超えて調整することも可能です。
個々のバランスは(8)、トータルの調整は(7)(8)でやる訳ですから、かなりややこしくなります。分かりにくいならリミッタを撤去し(8)が何回転でも回るようにし、(7)を目一杯締め込んで「IMS系統を殺してしまう」と言う手もアリでしょう。

3ー5.排ガス減少装置の調整をする

2−4と同じです。

4.不具合早見表

原因が上記のSUキャブ調整がうまく出来ていない場合(キャブ内部構成部品の不具合は除く)に限定した内容です。実際はエンジン本体や点火系、キャブ内部構成部品、その他補器類などが原因の可能性も考えられますので、そちらも点検が必要です。

  不具合現象 考えられる調整不良箇所
a アイドル回転数が高い。 スロットルorISS調整不良・(4)が戻っていない・ダッシュポット固着・スロットルリンク引っ掛かり・スロットルオープナー効きっぱなし
b アイドル回転数が低い。 スロットルorISS調整不良・ガス濃度調整不良
c アイドリングが持続しない(回転が低下→エンスト) ガス濃度調整不良(主に薄過ぎ)
d アイドリング時、エンジンが振れる。 ガス濃度調整不良・前後のスロットル開度が著しく異なる
e アイドリングからゆっくりアクセルを踏んだ瞬間に息つきする。 前後キャブのスロットル開度orガスの濃さのバランスにズレ有り
f 燃費が悪い。 ガス濃度調整不良(濃過ぎ)・ダッシュポットやスロットルオープナーの作動不良(現象aまたはgを伴なう)
g エンジンブレーキの効きが悪い スロットルオープナーやダッシュポットの作動不良
h 上記不具合が複合している。 全項目要調整 

g

一つの不具合が解消すると、他の不具合が出る(ex : cを直すとeが発生する等) 全体の調整不良またはキャブ不良(要オーバーホール)

 

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